やさしくない

dolce













首つかまれて頬をはたかれて、この行為自体もう慣れたけど、やっぱり今だに驚くし、こわい。
今日は怒ってるのかと思って不安になったけど、顔は笑ってたからどうやら違うらしい。
痛いようで痛くない、じゃれ合うよわさで噛み付くからこの男は、どこまで本気かわからなくて困る。


「あんたさ、こんなことして楽しいの?」
「ああ、楽しいね」
「あっそーですか、この変態」


喉の奥を震わせて笑う高杉と動けないからにらめっこのわたし。
この状況、誰かに見られたらどうすんのって、心配になるけど時間が時間で残念ながら、捕まった時から誰かの笑い声も足音も聞こえてこなかった。


「おめぇまた、銀時といたんだって?」
「、、先生っていいなよ」
「思ってねーから言わねぇ」


まさしく反抗期の、クソガキのお手本みたいな発言にむかついて、そもそも無関係なのにあらぬ疑いをかけられた先生に、いろんな意味で、ごめん。ていうかタイプじゃない。心の中で頭を下げた。

誰かと一緒にいたとか話してたとか、よく考えなくたってどうでもいいことでいちいち時間もライフも削りたくないんだけど。

一度や二度じゃない、気に入らないなら首に輪でもかけてどこにも行けないようにしてくれてかまわないのに、あえてはなして泳がせて、逃げられそうになったらまた針さして捕まえる。
わたしだって従順じゃないから、他の何かに興味が湧くことも誰かのやさしさに尾を振ることも、人並みに傷付いたりもする。

嫉妬の沸点は驚くほど低いくせして束縛までは至らない。こちらから掴まえようとしたところで上手くかわして逃げる、扱いにくいにも程があるこんな、冷たい場所なんかにいつまでもいられない。

「あんたさ、わたしにどうしてほしい訳?」
「どっか行っちまえばいい、お前なんか」
「・・・手、離してくれないとどこにも行けないんだけど」
「うるせーよクソ女」
「ーーーっ」

唇に噛み付かれて痛い。激しくするから息ができなくて苦しいのに甘いのはどうして、放されてさみしくなる自分の唇が憎い。

感情も思考も表情も行動も、普通の人にとっては全てがちぐはぐで、この人にとってはそれが当たり前で、正解がないから答えを見つける気は早い段階で失せた。


「・・・わたしがいなくなったら困る癖に」
「あ?誰が困るかよ」


指に力がこもるのが皮膚を伝わってわかって、あ、絞められる。思って構えたら無意識にごくり、喉が鳴ってそのまま、人質の首を掴まえていた手がやわらかくほどかれたのは意外だった。


「・・・高杉?」
「もういいよ、お前、」


消えてくんね、ほんと、ひどい言葉をあえて選ぶのはきっと癖になってる、楽しくもないくせに口だけ歪んで笑う高杉に、返す言葉は飲み込んだ。

誰かとつるむのは面倒ででもひとりで居るのはさみしがる。選んでおいてそれだから、自分が一番面倒臭いってきっと自覚してる。

不器用なんてもんじゃない、ただでさえ生きづらい世界をあえて真逆に泳いでる。
もしかしたらそうさせる要因はわたしにもあるのかもしれないけど、教えてくれないから知らない。 欲しい言葉もくれないで、かける言葉は聞きやしない。さみしいともかわいそうとも思いたくない。

不健康なしろい指に触れる。握り返しては来ないけど、振りほどかないのはなんでって、考えた時点でお互い無様で笑えてくる。

泳ぎ方を知らない流されることもできない溺れる魚のこの人を、すくい上げることも一緒に沈むこともわたしはするつもりないけど、ただなんとなく言うとおりにするのも癪だから、もうちょっとだけ一緒にいてあげる。







やさしくない



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(140710)