きみがすき
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「あんま近寄んないでくんね?」
「は?」


なんでこの人にいきなり、そんなこと言われなきゃなんないの。
なんでって、反射的に思ったけど答えはわかってるからそれが余計、むかつく。



じりじりじりじり、もう夏休み終わってんのに毎日うだるような暑さのせいで食欲ない。
開襟の風通しの悪さがにくい。ただでさえ体温高めの年頃が頭並べてる教室に扇風機一個って。学生のうちに忍耐を鍛えようなんてのは建前で、無駄金使いたくないって魂胆はされてる方からしたら見え見えで、それにしたって限度がある。
来週身体測定だけど最低体重叩き出しそう。しめった袖の下から生えてる腕は我ながら細いと見るたびに思う。太りたくても太れないなんて残酷な悩みは多分、打ち明けた瞬間女子達に殺される。


「総悟」


顔も見たくないのに両耳はダンボで、呼ばれなくても無意識に選んで拾ってしまうのはいつからか習性みたいになってる。


「ーーなに」
「あいつになんか言われたでしょ?」
「・・なんか絡まれたけど何?ウゼーんだけど」
「ごめん、あんま気にしないで」


悪気はないの、なんてやめてほしい。こっちからしたらあんなやつ、存在すべて悪の塊でしかない。 憎たらしい片目の黒髪が浮かんで、心の中で唾吐いた。


「嫉妬しちゃってバカみてー」
「もう、総悟ってば」


言えばいいのに、なんであいつなのって、言えばいいのに、どうして俺じゃないのって。
少しでも悲しそうな顔見せてくれたならすぐにでも連れ出してあげるのに、いつだってしあわせそうに笑ってるからそんなことできない。


「なんであんなに焼きもち焼くのかわかんない。ただの幼馴染なのにね」


オレの気持ちなんか一生、わからないくせにわかる気もないくせに、全部わかったような口ぶりで軽々しく同意を求めるからほんと、辛いなんてもんじゃない。
わたし総悟のお嫁さんになるの、なんて可愛かった小さな天使はどこへ、いつからきみは悪魔になってしまったの。


「そんなん、オレが知るわけねーだろ」


突っ伏した状態のまま顔も見ずに呟いた。なんでわかんないの、あいつはわかってるのに、どうしてこんなにも鈍い。
汗ばんだ腕が机に張り付いて気持ち悪くて、場所変えてもすぐに伝わって生ぬるい熱持つから、逃げ場所なんてなかった。


「総悟?どうしたの?具合わるい?」


そんな古典的な方法で熱なんか計れるかよって、思いながら触れられた部分だけ温度が急上昇しそうな、ばか正直な身体がにくい。

ドキドキなのかズキズキなのかどっちなのかもうよくわかんない、若いのにもう散々負担かかりまくって現在進行形でそんなんだから、ほんとかわいそうな心臓。

頼むから触んないでって、はねのけたいけど無垢な悪魔の優しい手のひらを、憎むことなんて出来なくて。
でもこれはオレのじゃないんだって思ったらかなしくなって、また心の中でなみだがひとつ、ぽろり。

こっちからはきっと離れられやしないんだ、どうせ無自覚に掴まれたままの心臓だから、もういっそのこと間違えてひねり潰してでもくれたなら、きっとオレは楽になれる。







きみがすき


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