殺し合いゲーム
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強さの証明が欲しいとか怨恨とか逆恨みとかただ単に血迷っただけとか、オレんとこまでわざわざ命を捨てに来た死にたがりを何度も見てきたし斬ってきたけど、そのどれにも属さない人間だったから珍しいなとは思った。


「なにやってんのおめーら?婦女暴行?」


非番だろうが当番だろうが正直オレにはあんま関係ない。ここでオレのやる仕事なんて別に無いし振られても山アあたりに投げるから、元より頭数に入ってないのはわかってる、ありがたいことに。
一応出番がないこと確認して今日も市中見廻りという名のサボりにでも行こうかとぷらぷら歩いてると、門のあたりで隊士たちに囲まれてる女が見えた。


「隊長!いえ、この娘が、」
「隊長?あなた隊長なの?」
「いや生まれた時から副長だけど」
「いやアンタ隊長でしょう」
「どっちでもいいけど教えてほしい事があるの」
「あ?何でィ」
「オキタソウゴって誰?」


いや誰って言われてもオレだけど。目の前の多分、年ごろは見た感じ同じくらいの、背丈もおそらく、悲しいことに。そんな女がにこにこと屈託のない笑顔浮かべてオレに、一体なんの用がある。


「そーゆーアンタが誰」


どっかの誰かさんたちみたいに女にうつつを抜かした覚えはないし二枚目気取って引っ掛けた覚えもない。元来人の顔覚えるのは苦手分野だったし正直自信ないけど、記憶の引き出し開けてみても出てこない顔だった。


「えー と申します」
「いやホント誰、つかなんの用」
「言ったら会わせてもらえないかもしれないから言わない」
「、、沖田総悟はオレだけど」


なんか用?名前名乗ってもう一回、言った瞬間見開いてきらきらと輝いた眼は、やっと会えたと、ずっと会いたかったと実際口には出してないけど、まっすぐにオレにそう言っていた。
名前だけ聞いて会いに来たやつも過去に何人かいた、腕が立つからってどこで聞いたんだかそんな噂を耳にして野次馬みたいに、そういう奴らは決まってオレの容貌確認して見当違いって面して帰ろうとするからせっかくだからって、捕まえてわからしてやったから別にいいけど。
そういう感じじゃなかったから他に考えられる事はひとつ。


「愛の告白だったら聞いてやってもいいぜィ、ただし5秒以内な」
「いえ、あなたを倒しに来ました」
「は?」


それ、このご時世で携えてたらお縄なんだけど、廃刀令って知らないの。羽織の下にうまく隠した腰の長物になんとなく理解したけど、顔見たら変わらずまっすぐな目玉くっつけてたからジョークってわけじゃないらしい。
こんなんでもここ公的機関だし一応勤務中だから公務執行妨害というか、最強とか斬り込み隊長とか言われてきてわりと自覚もしてるオレを、屯所につまり本陣に、そんな物騒なもん持って向かってきたわけだからある意味テロ行為だと見なされて粛清されても致し方ないんだけど。


「なーオレ斬ってどーすんの?」
「いやどーすんのって言われても困るんですけど」
「いや困ってんのオレのほうなんですけど」
「まあ、そうだよね、すんません」


ここじゃ何だからって、止めようとする見張り片手で制して、せっかく来たんだし言っても聞かなそうだから。タイミング良いことに近藤さんも土方さんも揃って出払ってて咎める人間はいないからちょっとくらい付き合ってやることにした。


「その様子じゃ怨恨ってわけじゃなさそーだな」
「なにそれ、初めて会った人に恨みなんてないよ」
「アンタさァ、死にてーの?」
「死にたくないし死ぬつもりもないよ」
「あーそー、、悪ィけどむり」


くだらない応酬はさっさと終いにしてしおう、言い終わる前に引き抜いたこちらの得物を、まあ、経験あるなら受けるくらいできんだろって速さで打ち付けて、そのまま吹っ飛ばしておさらばするつもりだったんだけどまさか、止められるとは思わなかった。
その細腕の一体どこにそんな力があるのかと。自分も散々言われてはきたけど男と女じゃ筋肉と脂肪の比率もそもそものつくりも違うし、男のオレにそう思わせるなんてなかなか。


「へー、吹っ飛ぶと思ったんだけど、スゲーじゃん」
「・・いきなりすぎて死ぬかと思った」


死なないけどね。ぎりぎりぎり、むかつく台詞にどこまで耐えられんのかなって心の中でカウントしながら力込めてたら、一瞬引かれて支え失ったとこはじかれた。
体勢整えて間合い詰めて顔見てみたら映った眼球の奥に、さっきまでへらへら笑ってた小娘はどこへやら、ぎらぎらと生々しい獣の輝きを灯していた。


「さっきオレのこと倒すつったけどそれ、殺すのまちがいじゃねーの?」
「わかんないけど多分間違えてないと思う!」


向けられた切っ先弾いて弾かれて、振られた分かわしてかわされて。腕は思ってた以上で、そこら辺のぬるい連中だったらもしかしたらさっさと首取られてお仕舞いかもしんない、オレからしたらまあ、大したことないけど。
この場所にいる人間にとって負けることとは即ち死ぬこと。斬り合いしてんのに殺意が全くないのは一体なんなの。そのくせ獲物を狙う猫の目がこちらを捉えて光るのが気に食わない。


「おい!何やってんだてめーら!」
「総悟?え?誰あの娘?」


前言撤回してタイミング悪いとこに2トップが帰ってきた。オレの中じゃ1トップだけど。周り見たらいつの間にか他の隊士たちも野次馬で集まってきてて、屯所内での斬り合いは法度だと、わめくうるさい外野は無視して向き直る。

力の差もこっちが手抜いてんのもわかるはずなのに引かない。殺す気もないし死ぬ気もない、狂ってるわけでもない力試しとも違う、ただ純粋に鉄と鉄がぶつかり合って零れる瞬間の、湧き出る生命の輝きに魅了されているのだ、この女は。
光の中で散れるなら本望だと、そういうこと。だからこんなにも楽しそうな。


「アンタさァオレじゃなけりゃとっくに殺られてるけどわかってんの?」
「生きてるうちから死ぬことなんて、考えてないから知らない」
「たいした向上心だなそりゃァ」


多分こいつ、斬るまで止まんない。
命の取り合いで生の実感湧かすなんてあいにくオレにそんな性癖も趣味もない。赤の他人のそんなものを満たしてやる筋合いないし、手を汚すのもばからしい。

だいぶ息上がってるしこっちが幕引かなくても勝手にぶっ倒れそうだけど、正直あんま長引いて体力削られんのも嫌だし斬っちゃっても支障なかったけど、なんとなく伸びしろ見えちゃったのとなにより殺しても死にそうにないこの女の思い通りにしてやるのは癪だったから、別のやり方で黙らしてもらった。









「また相手してよ」

吹っ飛ばされて一緒にどっか上のほうにでも旅立ってた魂が帰ってきて、起き上がってこっち見て開口一番、やっぱり強いんだね、のあとに続けて言った台詞に、体の奥のほうがぞくりと冷たくなるのがわかった。

年ごろの娘の面半分、腫れ上がって形変わるくらいの一撃を食らって負けたくせに、怒りもしない泣くでもない、ずるいやり方でおこぼれ貰って生かされた事を屈辱だなんてまったく思ってない。それどころかまっさらな、前しか見てませんみたいな顔してんのがむかつく。

汚れも歪みも理解しない受け付けなそうなこの女に、珠玉の屈辱を味合わせてやりたい。オレがそんなこと思ってるなんて想像つかないんだろう、だってあいつ頭おかしいから。人のこと言えないけど。

弱いくせしてオレを負かすって日々息巻いてる、負かす時は殺す時だってわかってんのかな。まあそんな事は地球が滅亡してもあり得ないことだけど。

やっぱりあん時斬ってやればよかった。けどこんなに惚れられてしまって、正当なやり方でとどめ刺したげるなんてもったいないことこの上ない。
けどきっとオレが斬ったところで全部受け入れて笑うんだろう、想像しても途切れそうにない熱い炎の輝きに、いつか焼かれてしまいそう。







殺し合いゲーム


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