シーロスタットはいらないよ
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「ねぇ沖田くん」
「何ですかい」
「そんなとこで何してるの?」
「何って、見てわかりやせんかィ?」
「いや、まあどういう状態なのかはわかるんだけど」

(一体どういう意図があってそんなところにいるのかがわたしにはわからないんだよ)





今日はお日様がすごく気持ちがいい、絶好の洗濯日和だ。
空は青いし、日差しはちょっと強いけれどぽかぽかしていて、きっと今日干した洗濯物はすぐ乾いて、お日様の匂いがするんだろうなあ。
そう思いながらわたしは、毎日山ほどに出る洗濯物を今日も庭の物干し竿にせっせと干し続けていた。
強い風が吹いて、干したばかりの洗濯物がばたばたと風に揺れてふと気がつくと、ふわりとめくれたシーツの間に何故だか沖田くんがはさまっていた。
まさか干したばかりのシーツの間に人がはさまってるだなんて思ってもいなかったわたしは、沖田くんを洗濯物と一緒に洗ってしまったのかと思った。とにかく、びっくりした。


「ひなたぼっこでもしてるの?」
「あァ、それもあるかもしんねェなァ」
「他にはなにが?」
「いや、―」
「総悟ォォ!!」


沖田くんが何か言いかけたところで屯所の方から明らかに怒っている土方さんの声と、ドタバタと廊下を走って襖を勢いよく開けては閉めるような、とにかくさわがしい音が響いた。わたしはそれだけで(ああまた逃げてきたのか・・)と簡単に憶測がついた。


「やべーな、こっちに来ちまう」
「早く逃げないと土方さんに捕まっちゃうよ?」

くすくすと肩を揺らして笑った。
沖田くんの横に目を遣れば、まっさらなシーツが風に揺れてきらきらと光っていて、なんだかすごくきれいだった。きっとシーツの間はあったかくて気持ちいいんだろうなあ。


「そいつぁ勘弁だ、ほら、そこじゃ見つかっちまう」
「え、わ!」


急に腕を引っ張られて、わたしまでまっさらなシーツの海に引き込まれてしまった。
日を浴びたあたたかい匂いが鼻に届いて、顔を上げればすぐそばに沖田くんの顔があって、なぜだか少しドキドキしてしまった。


それよりもどうしてわたしまで隠れなきゃいけないの、浮かんだ抗議と疑問は目の前で立たされた人差し指にしたがって飲み込んだ。
とりあえず言うとおりにしておこう、わたしも怒った土方さんはすごく怖かったから。(いつも原因はこの人なんだけど)


シーツの中は、まるで小さなテントにいるみたいだった。
そういえば子供の頃はこうやって狭いところに隠れて遊んだりしてたなと、ちょっぴり懐かしい気持ちになった。沖田くんなんかは今でもしょっちゅうこんなことをしているから、まるでおっきな子供みたいだ、そう思うとなんだか笑みがこぼれた。


不意にまた足音がどたどたとすぐそばで聞こえて、わたしはびくりと身体をこわばらせた。それに気づいた沖田くんが、ぽんぽんと優しくわたしの背中を叩いてくれた。
次々と襖を開ける音が聞こえる。土方さんたら、そんなに乱暴にしたら襖が壊れちゃうよ。


「総悟オオ!どこ行きやがった!!」


土方さんの声がわたしの鼓膜を荒々しく揺らした。おそらく一枚隔てた向こう側にいるのだろう。今にも風でめくれて見つかってしまいそうだ。沖田くんの顔を見れば、真面目な顔でシーツを向こう側の様子をうかがっていた。
確かに見つかったら大変だけど、土方さんが相手だとかくれんぼも命がけなのか。(ていうか仕事中じゃないの)ああどうか見つかりませんように。
沖田くんはいつも無表情だったり含み笑いな表情ばかりだから、こんなにきりっとした真剣な顔をする沖田くんはあまり見たことがなかった。わたしはちょっとかっこいいなあ、なんて思ってしまった。





じっと息をひそめて動かないでいたら、さわがしい足音が遠ざかって行ってわたしはほっと息を吐いた。
気づけば沖田くんの手はまだわたしの背中に回されたままだった。


「沖田くん?」


どうしたんだろうと思って顔を上げたら沖田くんの顔が近づいてきて、そっとわたしのほっぺたにキスをした。


「俺ァさんの事好きですぜィ」


いきなりのことで何をされたかよくわからずきょとんとしていたわたしに、沖田くんはにっこりと笑って言った。

端正な顔立ちと大きな目にまっすぐに見つめられて、顔が熱くなるのがわかった。沖田くんの唇が触れたところが熱い。やわらかい唇。



わたしは真っ赤になっ何も言えずにいると、それを見た沖田くんが満足そうに笑ってわたしの体をもう一度やさしく抱きしめた。

また風が吹いて、ばたばたと揺れるシーツと一緒に沖田くんの笑顔が太陽みたいにきらきらと輝いてまぶしかった。きっとわたしも彼のことが好きなんだと思う。
だってまぶしいくらいのあの太陽がとてもとても大好きだから。

何も言えない代わりに沖田くんの背中に腕を回すと、沖田くんはもっと強く腕に力を入れてわたしを抱きしめた。
またふわりといい匂いが鼻に届いて、屯所の方でさわがしく彼の名前を呼ぶ声が聞こえたけど、今は聞こえないふりでもしておこう。
ごめんなさい土方さん、沖田くんはもうしばらくお借りします。


わたしはあともう少し、お日様のにおいとあったかい沖田くんの腕に包まれていたいので。







シーロスタットはいらないよ


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(050822)