わたしのことどう思ってる?なんて、いきなり言われてもそんなこと、しらない。 久しぶりの青空と焼かれてはね返すアスファルトの温度が心地いい。 6月の頭からしとしとと長く続いた気分の悪い雨空がやっとこさ晴れて、雲と季節の変わり目から始まる夏のにおいが鼻をくすぐる。 中学生から使ってるからぼろい自転車で毎日、坂道下るたびにギャーギャーうるさい、近いせいでたぶん蝉よりうるさい、背中にしょったお荷物の叫びはもう茶飯事なので気にしない。 いちいち止まってらんないからブレーキ踏まずに一直線、下った先の角にあるコンビニ目指してサドルを握った。 キンキンに凍って固くなった氷が冷たくて頭痛がしたけど、渇いた身体にひんやりして気持ちいい。 「明日から夏休みかぁ」 「あちー、プールいきてー、、あ、当たり。」 「えーマジで?ちょーだい!」 「嫌でィ」 「なんでー!ケチー!」 小さなことで喜んだり怒ったりうなだれたり、単純な構造をしてて見てると面白い。 いつの間にか隣にいるのが当たり前で、くだらないことでもばかみたいにげらげら笑って、あんまり誰かとつるむのは好きじゃないけどこの場所は居心地がいいなとは思っていた。 「総悟ともあんまり会えなくなるね」 「そうだなァ、学校こねーし」 「やっと梅明けたのに初日から部活とかめんどくさいよ」 「どいつもこいつも青春しやがって、うぜー」 「総悟も行けばいいのに、みんな寂しがってるよきっと」 「顔見せたらグーパンされそうだからやだ」 あんまし色んなこと、考えるのは好きじゃない。 例えばどうして眠くなるのかとか、どうして腹が減るのかとか、考えたって答えを知ったって別に世界が変わるわけでもないし、 明日の天気も授業の時間割も、いちいち確認なんかしなくても勝手にやってきて勝手に過ぎてくから、気にしたこと、あんまない。 「わたし総悟のことがすき」 空が紅くなって別れ際、もうじき暗くなるのにじりじり鳴いてる蝉がうるさくて耳がおかしくなったかと思って、うしろ振り向いたら見たことない顔してたからやっぱり、聞き間違いじゃなかったって。 掴まれてる手の力がいつもよりちょっとだけ強くて、顔色見れば一目瞭然で、少しびっくりしてでも何も言えなくて。 「ーー今まで、考えたことねーから」 わかんねーや、続けて投げられた疑問に、少し待たせて告げた。 ぱちぱち結んだり開いたりしてた二重まぶたが、「そっか」って、影をつけてすこしふるえるのが見えて同時に、ワイシャツからほどかれた指がなんだか少しさみしかった。 休みに入ってから数日間は暑さに完敗して遊びも宿題も一切やる気でなくて、ほとんどくさった状態で部屋の一部になってるオレを、見かねた母親の黄金の右脚が生き返した。 第二撃をおそれてしぶしぶ家を出ると、相変わらずうるさい鳴き声になけなしの体力を奪われた気がした。 とはあれから会ってない。 いつも約束なんてしなくても同じ場所で待ってて、行きも帰りもそうだから、休み中そうなるのなんて考えれば当たり前で、鳴らない端末を気にするのもオレらしくないし、ひとりでいることの違和感とか真ん中のあたりでつかえてるもやもやは、時折思い出してはまた眠らせた。 「すきってなに?」 夏なんだからただでさえ息するのもおっくうなのに、そればっかやってるから余計暑苦しくてむさ苦しい。 明日にきらめけなんてばかみたい、入部してから真面目に活動なんてしたことない、籍だけ置いてほったらかしの。 行くとこないからやる気もないのに仕方なく、冷やかしついでに向かった場所で、見つけた見覚えのある長身にねえねえと投げかけた。 「・・・いや何の話」 「土方さんさァこの夏だけで百人斬りってウワサあんだけどほんと?」 「してねーし。つーかなんでお前きてんの?すげー邪魔なんですけど」 「うるせーな暇なんでィ」 寂しがってるなんてウソじゃん。知ってたけど。 ユーレー部員はお呼びじゃないとでも言わんばかりの表情と物言いで、悪人面の部長はのたまった。 脇目も振らない優等生の美男子の、部活で汗を流す姿が女心をくすぐるらしい。オレには理解できないけど。 「暇って、がいんだろ」 「・・・なんで」 「はあ?付き合ってんじゃんお前ら」 「いやつきあってねーし!」 え、そうなの?心底驚いてますみたいな顔でこっち見ないでほしい。 「あんだけつるんどいてわかんねーもんだな」 「つーか休み入ってから会ってねーし」 「なに?お前放ったらかされてんの?そらかわいそーに」 絶対思ってない。にやにや気持ち悪い笑顔つくって本質は鬼だか悪魔だかどっちかのクラスメイトがのたまってむかつく。 (ーーつーか、) ほったらかしにしてたのはどっちかっていうとオレのほうで、かわいそうなのはオレじゃなくてあいつのほうで。 まだ答え出てないけど、わかんないなんて1番ずるくない?気づいたらなんか、言わなくちゃって 「なんかよくわかんないけど今のでわかった気がする」 「・・・さっきからお前大丈夫か?」 「アンタはむさ苦しく青春してて」 「はあ!?」 後ろで聞こえる怒鳴り声は無視。時計チラ見してまだ間に合うって喝入れて、履きつぶしすぎてほとんどつま先だけ引っ掛けてる上履き鳴らして音楽室までダッシュした。 ーーーーーーーーーーーー 「!」 「え、総悟?なにやってんの?」 「ちょっと話、しにきた」 部屋の奥のほうで知ってる顔が何人か、伺うようににやついてたのがむかついたけど気にしない。 「、、話って、何の」 「あん時のアレ、どう思ってるかってやつ」 「あー、、あんま気にしないで忘れて。変なこと言ってごめん」 謝ることなんてない、変なことなんて、なにひとつないのには、本当は心の中と真逆の、何でもない嘘の顔で顔で笑った。 自分になのかになのか、なんだかすごくむかついて、舌打ちして空っぽの腕つかまえて無理やり、あまり人のこない階段のところまで引っ張ってって立ち止まる。 「なに!?どうしたの!?」 「多分返事になってねーと思うんだけど、聞いて」 「総悟?」 「オレ頭わりーし好きとか嫌いとか、考えたことねーし、あんまうまく言えねーけど」 「、、うん」 「が、側にいないのはすげえ嫌だなって思った」 「・・・そっか、」 年ごろだけは青春真っただ中のオレにとっては多分それなりに貴重な夏休み半分、あんま使ってなくてホコリのたまった脳みそも、フルで使って考えてみたけど、結局正直よくわかんない。 ただあの時、それだけで十分だよって、くしゃって笑ったの、今までちゃんとみたことなかった垂れた目尻の睫毛の長さとか、下向いたせいで顔にかかった前髪をなおす仕草とか、あ、女っぽいなんて思って、奥のほうがほんのすこしあつくなった。 夏休みあと半分、残ってるけどなにに使おうか。あいつ今なにしてんだろ? 心臓の端っこにトゲでも引っかかったみたいにちくちくしてうわずって、考え出したらくすぐったくてたまんない。 あの日からずっと続いてる、この感情は何ていうの。 きらいじゃない  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ (140711) |